DML Design Management Lab

4D Conference 2019 日本開催の意義

多くのみなさまにご参加いただき、たくさんの実りある議論ができましたこと、厚く御礼申し上げます。

 

4D Conferenceは、リトアニアのカウナス工科大学デザインセンターとミラノ工科大学デザインスクールが2017年に立ち上げた、デザイン研究に関する国際学術会議です。今年が2回めの開催になります。リトアニアがソ連解体による自国の理念の再構築と、ソ連時代を知らない若者たちのアイデンティティ構築のために、デザイン教育/デザイン振興に力を入れる政策の一環として始められたものです。その背景に感化され今回、日本での開催を引き受けました。

 

もう少し詳しく言うと、リトアニアは1990年の独立からいま約30年が経ち、さまざまな問題を抱えています。その問題の根底に「社会問題に関する国民の意識が未だにソビエト時代から抜け出せない」ことを、4D Conferenceの創設者であるカウナス工科大学デザインセンター長のルータ・ヴァルサイティが指摘しています。

 

旧ソ連支配下では、個人よりも組織・共同体(ソ連)の価値判断が優先されていました。一方で独立後には、リトアニアという国自体の、さらにそこに生きる自己のアイデンティティを自分たちで(再)構築しなければならなくなりました。そこでは「自分たちはどのように生き、なぜ働き、どこに向かおうとしているのか」という問いに対して、自分たちで具体的なこたえを得ることが求められているのです。

 

この話しを聞いて私たちは、まさに今の日本における新しい働き方や生き方の議論に通じるものだと思いました。私たちはなぜ働き、どのように生き、どこに向かおうとしているのか。この問いに対して、私たちにはリトアニアほどに急で具体的な回答は求められていないのかしれません。でも、歴史・経済的に見て日本は成熟期にあり、リトアニアは変革期にあるから、と片付けて納得したふりで見過ごすのは少し楽観的すぎないでしょうか。

 

このリトアニアの状況に対して、ルータは、社会にデザインの考え方を浸透させる重要性と必要性を説き、デザイン教育実践をはじめています。まず、5年前にカウナス工科大学にデザインセンターが立上げられ、そこに入学1年目の1000名ほどの学生が必須科目としてデザインに関連するプログラムを履修する仕組みがつくられました。さらに、デザイン文化を定着させるために、イタリアのデザイン組織とコラボレートし、デザインに関するイベント開催やコミュニティにおける情報共有の場づくりを進めています。

 

さらに2017年にミラノ工科大学と共同で、この4D Conferenceが立ち上げられ、世界のデザインの研究知をリトアニアに集めようという意図で、第1回がリトアニアで開催されました。第2回以降は世界を巡る、2019年に第2回を開催する予定で開催国とホストを探しているというルータの話しに私たち手をあげ、日本で開催することを引き受けました。

 

価値判断は誰かによって与えられるものではなく、自分自身でつくり出していかなければならない。国や自分のアイデンティティをデザインの知見によって(再)構築する。それは日本でも変わらず必要なことだと思い、ルータがやろうとしていることに、私たちは大きく感化されたのです。

 

ただここで、私たちが本質的に問うべきことは、このはなしの中心になぜ「デザイン」があるのか、ということです。

 

それはデザインが単なるものづくりやスタイリングの方法論ではなく、ものごとの新しい意味を創り出していくプロセスだからです。日本のビジネスにおいても今、「デザイン思考」や「デザイン経営」のように、デザインが企業のブランディングやイノベーション創出に貢献する思考プロセスであることの理解が浸透しはじめています。とはいえ、商品開発やブランド、イノベーションに直接関わらない職務に従事するビジネスパーソンにとって、デザインはいまだ縁遠い存在であると思います。

 

でも、デザインとは、企業のブランディングやイノベーション創出に貢献するだけの小さく狭いものではありません。その大きさと広さを知るために、私たちはデザインについてもっとよく知り、考える必要があると思います。もっとデザインのことをよく知れば、それが縁遠い存在でなく、自分たちの仕事や生活の最も身近にあり、常に新しい意味を問うているものであることにきっとすぐ気づくでしょう。

 

この学会開催をめぐる取り組みは、デザイン研究の学術的な深化にとどまらず、日本における組織やリーダーシップのあり方、新しい働き方や生き方の議論にデザインの知を活かすための私たちの挑戦です。

 

そこで、今回の学会オープニングイベントでは、研究者だけが集う学会というかたちを越え、ビジネスパーソンにアプローチするオープンな場としました。本来学会に参加しないと出会えないこの分野を代表する先進的な学術的・社会的実践を行う基調講演者を、オープニングイベントで一堂に集め、学会メンバーでない方たちでも参加できるシンポジウムです。ここでは「これからのソーシャルデザインの意味」にフォーカスした議論が展開されました。企業や組織におけるソーシャルの意味、ソーシャルに開かれたデザインの意味を問うこと。それは今後の企業や組織、私たちの暮らす社会の価値判断基準・ものさし自体を問う議論が行われました。

 

  4D Conference 2019 オープニングイベント:
  2019年10月20日(日)立命館大学大阪いばらきキャンパス
  Meanings of Social Design in the Next Era

 

3日間の学会では「これからのデザインの意味」をメインテーマに、国内外から集まった約50件のデザイン研究に関するプレゼンテーションが行われました。研究発表セッションに加え、オープニングイベントに登壇した基調講演者のはなしをそれぞれじっくり聞きディスカッションする機会(Design Library Talk)や、スポンサー企業や研究者によるワークショップにて、これからの時代のデザインの新しい意味に関して活発な意見交換が行われました。海外のデザイン研究者が一同に会するこのような場は、国内ではまだそう多くなく貴重な機会となりました。

 

  4D Conference 2019:
  2019年10月21日(月)-23日(水)大阪国際会議場
  4D・Designing Development Developing Design – Meanings of Design in the Next Era

 

 

八重樫 文
General Chiar, 4D Conference
立命館大学DML チーフプロデューサー
立命館大学経営学部 教授